名誉院長コラム

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名誉院長コラム ~PSAによる前立腺癌検診は怖くない~

医療法人社団 邦生会
高山病院
名誉院長 尾本徹男
  • *日本泌尿器科学会 専門医・指導医
  • *日本泌尿器科学会
     腎癌取扱い規約作成委員
  • *国際泌尿器科学会 正会員
  • *産業医科大学泌尿器科 非常勤講師
  • *福岡県国保診療報酬 審査委員
Ⅰ) はじめに

「前立腺癌はPSA検診ですぐ判るから怖い」との声を時々耳にします。一方「PSAの住民検診は無益」とのマスコミ記事も時に見かけます。どちらも誤解を招きかねない言葉ですので、ここでは「PSA検診は怖くない」をテーマに、解説したいと思います。

男性の方は勿論、女性の方もご主人やお父様のために読んで下さい。少し専門的な話や参考にした資料は、Dr用メモとして最後に付記しました。

Ⅱ)

我国のがん・統計白書(2012年篠原出版新社)によれば、前立腺癌の罹患数は2000~2004年胃、肺、大腸に次いで4位でしたが、2010~2014年2位、2020~2024年1位と急上昇が推計されており、PSA検査の普及によるものと言われています。

しかし、癌の診断はPSAだけでは不可能で、前立腺生検によらねばなりません。具体的には局所麻酔下に、経直腸的エコーで前立腺を透視しながら、径2mmの針を前立腺に刺入し、1.5cm位の糸状組織を採取して癌の有無を判定します。癌(+)の場合、悪性の度合や前立腺内の癌の位置、広がりなど、治療法選択のための重要な情報も同時に得られます。

Ⅲ)

この針生検を行う必要があるか否かを教えてくれるのが、PSA採血検査です。PSA(前立腺特異抗原)は前立腺内で生産される糖蛋白で、腫瘍マーカーと言われますが、この血中濃度を測定し、基準値の4ng/ml以上の場合にがんの潜在を疑う訳です。但しPSAは正常前立腺にも存在しています。良性疾患(前立腺肥大症、前立腺炎)、物理的刺激(射精後、自転車、前立腺マッサージなど)でも上昇しますので、注意が必要です。

検査対象年令は住民検診で50才以上、外来診療では40才以上とされており、上限設定は行われておりません。

当院では判定したPSA値に応じ、大方下記のように対応しています。
  1. 1ng/ml以下は大安心。再検は3年後をすすめる。
  2. 1~4ng/mlは一応様子見。再検は1年後をすすめる。
  3. 4~10ng/mlは生検勧告。
  4. 10ng/ml以上は即生検を強く勧告。
  5. 上記34のケースで、種々の事情で生検が出来ない場合、3カ月毎のPSA検査を主体に、早期生検の機会をうかがう。
参考までに、当院3年間のPSA値別生検陽性率を示します。
年度例数PSA10以下PSA10以上全例
201110637%54%43%
201210731%60%40%
201310336%47%40%
Ⅳ)おわりに

がん検診を避けて通りたい気持ち、怖いと思う心理は誰にでもあると思います。しかし、上述に加えて下記を理解していただければ、前立腺癌のPSA検診は怖くなくなるはずです。40才以降一度はPSA検診を受けられますよう強くおすすめします。

  1. PSA測定は血圧測定と同類。確定診断(生検)の予備検査であり、値を知ってからが勝負。
  2. 前立腺癌は発育速度が遅い。従って、高齢者でもし見つかっても平均余命、生活状態、他の合併疾患などを勘案して自己の価値観に合った治療選択が可能なケースが多い。
  3. PSA値10ng/ml以下で発見されたケースは、完治可能の低リスク群が多く、無治療経過観察(PSA監視療法といいます)も含まれている。
●Dr用メモ
  1. PSA検査は、自覚症状(-)は健康診断扱いとなるが、多少とも前立腺疾患を疑わせる訴え(頻尿、とくに夜間頻尿、尿勢低下、排尿困難など)があれば、他の検査、画像診断がなくとも保険診療が可能。但し前立腺癌疑い病名は必要。
  2. 前立腺肥大症と癌の鑑別用腫瘍マーカーにフリーPSA/トータルPSA比(F/T比)があるが、PSA高値例にのみ適応。15%以下は癌によるPSA上昇の可能性大。
  3. PSAは加齢による自然増があるので、年令階層別基準値(64才以下3、65~69才3.5、70才以上4)も公表されている。
  4. PSA4以上で種々の事情のため、生検を先送りする場合、3カ月1回計3回までの反復検査が、保険上例外的に認められている。3回目以降は一旦中止し、6カ月以降リセット可。
  5. 生検は経会陰法と経直腸法がある(当院は前者)。いずれも経直腸的エコー下にテンプレートを用いて針刺入。左右葉6カ所、計12カ所の組織採取。20カ所以上とることもある。麻酔は仙骨麻酔で日帰りも可能だが、当院では術後合併症のないことを確認のため、一泊入院。
  6. 生検による組織学的悪性度分類は従来の高、中、低、未分化の4分類に代わって、現在はグリーソン・パターン分類が普遍化。
    これは、細胞異型を考慮せず、組織構築と浸潤様式のみで評価するユニークな分類法で、癌の組織形態を、悪性度の少ない順に1~5の5つのパターンに分類したものを基本とする。次に、すべての生検コアを調べ、散在する癌病巣を、それぞれどのパターン分類に相当するかを判定し、最も広面積を占めるパターン分類と、2番目に広いパターン分類の和(例えばパターン3+パターン4=7)をグリーソン・スコアとして表現。スコア6以下は低悪性度、7は中間、8以上は高悪性度の3群に分類。
  7. 生検で癌(-)は、6カ月毎PSA再検でフォローし、高値が続く時はMRI所見なども参考にして、1~2年後の再生検を検討する。
  8. 過剰治療を避けるための無治療観察(PSA監視療法)の本邦ガイドライン基準は 
    (i)グリーソン・スコア6以下 (ii)生検時PSA10以下 (iii)陽性コア2本以下且つ陽性コアの癌占拠面積50%以下 (iv)臨床病期T2(腺内に限局)以下。
  9. 参考にした資料
    ⅰ)「前立腺がん検診ガイドライン 2010年増補」、「前立腺がん診療ガイドライン 2012年」は、共に日本泌尿器科学会編(金原出版)で、コンパクトで判り易く、専門分野を問わず有用。
    ⅱ)「前立腺癌の診療ナビゲーション 2014年 臨床泌尿器科増刊号 医学書院」は、最近の知見を含め、幅広い項目についての記述があり、知識の整頓に便利。
2015.1.15 記